厳選70古文単語 古伝しらゆきひめ

白雪姫_表紙

古伝 しらゆきひめ 作成記

 昭和女子大学「古典教材作成プロジェクト」にて、古典の教科書に出てくる古文単語を調査し、どの語がどのくらい出てくるかを調査したところ、 70語程度覚えれば教科書の7割はカバーできる ということが明らかになりました。
 300語、400語、とたくさん載っている単語帳はいくらでもありますが、古文をやり始めの時・単語が全くわからない時にはそれでは多すぎ。どこから手をつけたらいいかわからない、というとき、データ検証に基づき、自信を持って「まずはここから!」とオススメできる単語たちを厳選しました。

 単語の選定のあと、どのような形で教材化するか、ということを考え、たどり着いたのがこの形「古伝 しらゆきひめ」です。
  
 「単語帳」をめざして始めたこの企画だったのですが、その中で考えたことはつぎの2つ。

①例文をつけよう!!

プロジェクトメンバーが、単語リストと意味記述だけの試作版とにらめっこして、教材としてのありかたを考えた際、出てきた意見が「例文が欲しい」ということ。 単語の意味がひたすら書かれているだけでは、実際の文の中でどう使われているかイメージしにくいです。だから、例文をつけよう、と考えました。

 でも、実際の古典作品から例文を取り出して例文を示せばわかりやすくなるかというと・・・
 たとえば、古文の「知る」には「治める」という意味がありますがその実例として、
  『伊勢物語』から むかし、男、初冠して、平城の京、春日の里に、
  しるよしして、狩りに往にけり。
・・・という例文を示す、という方法で、本当にいいのか?と悩みはじめました。

 これで本当にわかりやすくなるんだろうか?やる気になるんだろうか? 入門として読むには、他の部分が難しすぎる…。「知る」の使い方だけ伝わればいいのに、他の部分の単語も気になっちゃったり、他の箇所が分かんないから、結局実感がつかめなかったり。しかも、1単語ずつ例文を探してきたら、例文の分量が増えすぎてしまいます。

 そこでたどりついたのが・・・  
わかりやすい例文をつくっちゃおう! という思い切ったアイディア。入門レベルで必要ない(むしろ邪魔な)複雑な単語・表現を排除し、覚えてほしい語が一文の中に可能な限り多く入っている例文なら理想的。でも、英単語帳とちがって、「簡単で分かりやすい例文」が載せられないのは、古文の宿命。この世にネイティヴがいない古文の「ちゃんとした例文」は、しっかりした古典作品から取ってくるしかありません。英語のように簡単な文を古文で作文して例文にする、というのは、ネイティヴチェックができない以上、市販の「ちゃんとした出版物」としてはやりにくいことでしょう。そこで私たちが、この場でやってしまおう、と思いついて試してみました。

 今回、簡単なお話仕立てにして、最低限の分量の中に重要単語をちりばめて作文。英作文ならアメリカ人の知り合いでもいれば「この作文、大丈夫?」って聞けますが、古文の作文だとそうはいきません。一生懸命考えて、なるべく古文らしく、古文っぽい文体にも自然に慣れられるように努力しましたが、まだまだ改善の余地ありです。「本当の正しい古文」からはずれているところも、きっとあります。しかし、「効果的に古文単語を身につける」という目標においては、今、私たちができうるベストを尽くしたつもりです。「完璧な正確さ」が保証できなくても、「わかりやすさ」が格段にあがるなら、という判断です。英語だって、実際に「This is a pen.」なんていう機会ないでしょうし、それと同じようなものだと思えばいいや、って思い切りました。

②意味の暗記ではなく、どういう意味か考える「考え方」を身につけよう!

 単語の意味を機械的に暗記しても、たいして使えない という経験、ありませんか?
たとえば、「いみじ」を「ひどい」という意味だと覚えていても、文脈によっては「すばらしい」という意味に使われていたりします。だからといって「①ひどい、②すばらしい…」と暗記し直しても、覚える量が増えるだけですし、「どっちやねん!?」ってわけわかんなくなったりします。
 そんな時、「良くも悪くも、とにかくスゴイこと。あ、いまの“ヤバい”みたいな感じか」と思っておいたら、その方がかえって意味が取りやすい場合がいくらでもあります。やみくもに意味を暗記していくというのは案外落とし穴かもしれません。それでうまくいかなくて、やる気をなくすこともしばしば。そこでこの単語帳では、意味とは別に、その単語をどうとらえたらいいのか、考え方を説明する、ということにも注力しました。

この単語帳のつかいかた

 次から始まる、「古伝 しらゆきひめ」の使い方を、ここで簡単にご紹介。
 

本文

 白雪姫を古文化したものです。古文の雰囲気、文体そのままに馴染んでいただこうと、あえて本文の訳はどこにも載せていません。すでに知っている話なので、お話の中身はわかっている状態で、古文を読んでみてください。  なるべく短く、また、可能な限り重要古文単語を入れる、ということを目指し作文しました。100%の完璧な訳とは言えないかもしれませんが、単語に触れること優先、さらには古文っぽい文体に慣れてもらおうと考え、このような文になっています。

単語帳部分

 本文の下に、表の形で「単語帳」を示しています。重要単語の確認だけなら、こちらだけ見てもいいでしょう。単語帳の表には、次の情報が入っています。

通し番号

 上の本文と、下の単語帳に、ともに通し番号が振ってあります。この番号をたよりに、本文で出てきた単語を確認してください。

単語  

 一覧の見出しは、本文の形そのままではなく、辞書見出し(終止形)になっています。なんとなく、でいいので、古文の形になじんでください。 なお、敬語については、尊敬語は〈尊〉、謙譲語は〈謙〉というような形で区別を示しています。

ここでの意味  

古文の訳で困るのは「意味を暗記しても、その文にきれいにはまらない」ということが多い点。英単語学習のように、単語と訳を一対一対応させて暗記していく、というのは正直オススメできません。訳はあくまで「ここでの」意味。本当に見てもらいたいのは、次の「解説」だったりします。

解説  

単語帳で最も読み飛ばされそうな項目、「解説」。しかし、古文においてはやみくもに訳を覚えるよりも、考え方を身につけたほうが使えます。古文は全くの外国語ではなく、千年前の関西弁。今の私たちの言葉とつながっている面もあちこちで見られます。そうしたら、ただ無理やり暗記する、っていう勉強法はかえって非効率。今とどうつながり、どこが違うのか、そういう「今」との比較の視点を身につければ、ここでの70語を理解したころには、新たに出会った単語についても、意味を「考えられる」ようになるのでは、そんな願いが込められています。各単語によって、統一感もなくいろいろなことが書いてありますが、考え方・覚え方のヒントをちりばめたつもりです。

注釈  

「古文単語帳作成」という目的からスタートしているため、主眼は単語の解説ですが、古文本文を載せてみると、文法事項など、 「単語帳」としての表とは別に「注釈」をつけました。せっかく「文」として読むので、「文」のなかで、単語以外の古文読解知識も身につくといいな、と願っています。

古伝 しらゆきひめ 本文

鏡よ鏡・・・テクマクマヤコンテクマクマヤコン

白雪姫_妃と鏡

今は昔、1はづかしき人の2知る国に、
3いと4めでたけれど心醜き妃あり。
5あやしき鏡を持ち、6つれづれなるままに
7よろづのことをその鏡に問ひけり。
「鏡よ鏡、*1 *2誰か世に8きよらなる」とて、
「君ぞきよらなる」と答ふるを待つ。

単語帳 1〜8

番号
単語
ここでの意味
解説
1 はづかし 立派な 現代の「恥ずかしい」と一緒だが、立派なことの表現に使われる場合あり。「こちらが恥ずかしくなるほど、相手が立派」ということ。✽「恥ずかしい人」⟹悪口じゃなくて、ほめ言葉。相手が立派すぎて、こっちが「恥ずかしく」なっちゃうような人。
2 知る 治める 今と同じ意味に加え、「治める」という意味あり。「知事」の「知」だと思えばいい。
3 いと とても  
4 めでたし 美しい 今より意味が広い。今の「おめでたい」のは、素晴らしいことの一部。「愛(め)でる」とつながっている。いい感じ。✽ここではお妃さまへのほめことば。素晴らしいとか美人とか。
5 あやし 不思議 今より意味が広い。怪しい。不思議。さらに「粗末」「身分が低い」という意味も⟹古文の「あやし」は今の「あやしい」「いやしい」をまとめたような意味だと思っておくといい。
6 つれづれなり 退屈 することがなくて退屈な様子
7 よろづ すべて 漢字では「万」。「八百万(やおよろず)の神」の「万」。実際の数としての一万、というより「たくさん」「すべて」だと思っている方がいい。
8 きよらなり 美しい 「清らか」の「きよら」。「うつくし」「をかし」など、美しい・いい感じのほめ言葉がいろいろあるが、「きよら」が最高の美しさだと思ってるといい。

注釈 1〜2

*1 古文での読みは「たれ」
*2 【係り結び】 ●係り結びと活用形
 ぞ・なむ・や・か ➡ 連体形
 こそ ➡ 已然形
 【例】君 きよらなり[終止形]→君 ぞ きよらなる[連体形]
●意味は?
 ぞ・なむ・こそ ➡ 強調
 や・か ➡ 疑問
✣ざっくりと、「ぞ・なむ・こそ」は「ぞ」で代表、「や・か」は「か」で代表して、後ろに回したらだいたい意味が取れる。
【例】君ぞきよらなる→君きよらなるぞ(あなたが美しいぞ)
   誰かきよらなる→誰きよらなるか(誰が美しいか)

空気を読まない鏡

白雪姫_山がつ

9されど鏡は、
「君*3が姫君、白雪姫ぞきよらなる。
10にほひ、似るものなくめでたし」
と申す。
この妃、白雪姫の母君11隠れ12給ひてのちの継母なり。

妃、鏡の13かく申すを聞きて
13かかるやう*4やはある。
いと14まさなし
15いみじく腹立ちて、
*5あやしき*6山がつして白雪姫を殺さむと16思し召す。

単語帳 9〜16

番号
単語
ここでの意味
解説
9 さ/しか そう 指示語。「こそあど」の「そ」。そう。「あり」がついて「さ・ある」(そんなふうにある)→「さる」などの形も。✽ここでは「されど」=「だけど」みたいな感じ。分解すると「さ・あれ・ど」(=そう・ある・けれど)。このあたりの形に慣れよう。
10 にほひ 美しい 現代の「におい」は鼻で感じるが、古文では見た目の美しさ。見た目の雰囲気であることが多い。訳はしにくいので、雰囲気で受け止めた方がいい。「見た感じ」
11 隠る 亡くなる 基本的に現代の「隠れる」と一緒だが、死ぬことの表現に使われる場合あり。現代で死ぬことを「なくなる」と表現するのと同じようなもの。 ☞注釈11「死ぬことの表現」参照
12 給ふ〈尊〉 ~なさる/お~になる 尊敬語。もとは「くださる」(「給料」などの「給」)
13 かく/かかる(かかり) こう 「かかる」=「かく・ある」(こう・ある)。だいたい「こんな」「こうだ」みたいな感じで「こう」だと思っていれば大丈夫。
14 まさなし 正しくない 「正」+「無し」。正しい状態ではない⟹よくない。都合が悪い。
15 いみじ ヤバい 良くも悪くもスゴイこと。すごい。
16 おぼしめす〈尊〉 お考えになる 尊敬語。「神の思し召し」などの言い方に残っている。

注釈 3〜6

*3 【古文の「が」】 「の」に当たる意味の場合も多い。「が」のままでは意味が取りにくかったら「の」で訳してみよう。(現代でも、「自由が丘」⟹「自由の丘」)
【例】君が姫君?⟹君の姫君
*4 【反語】 ●やは/かは(係助詞「や」「か」+「は」)
反語⟹キツイ疑問によってそうでないことを強調。
そんな人いる?(普通の疑問)⇔そんな人いるか!?(いないだろ!?)
【例】かかるやう(やう=様。様子・有様・こと)やはある⟹こんなことがあるか!?(あるはずない!)
*5 あやしき ここでの「あやし」は「身分が低い」( ☞単語帳5「あやし」参照)
*6 山がつ 猟師や木こりなど、山に住む身分の低いもの。「徒然草」とかにも出てくる語。

小人登場!

白雪姫_小人

山がつ、姫君の17ありて
18あはれに19なつかしきに、
20かなしくて姫君をば森の中に隠しつつ、
妃をあざむきて「*7かれ、殺しつ」と申す。

かくて姫君、内裏より21まかる
22おもしろき森にて姫君、
23をかしき七人の小人と住みけり。
小人たち、24らうたき姫君に25こよなく26かしづく

単語帳 17〜26

番号
単語
ここでの意味
解説
17 学識 よく勉強してる感じ。読みは「ざえ」。
18 あはれなり 素晴らしい 趣深い。感動してればすべて「あはれ」。現代では「あわれ(哀れ)」、「あっぱれ」に分かれたと思えばいい。
19 なつかし 心惹かれる/親しみを感じる 「悩む」→「悩ましい」、「わずらう」→「わずらわしい」と同様、「犬が人になつく」の「なつく」→「なつかしい」。なつきたくなるような感じ⟹心惹かれる、親しみを感じる、などの訳に。
20 かなし いとおしい 現代同様「悲しい」で意味が取れる場合も多い。ただし、今より意味が広く、「かわいい」「いとおしい」などの意味も。「かわいそう」と「かわいい」がつながるように、同情と愛情はつながっちゃう。✽ここでは「白雪姫が気の毒で、いとおしくなっちゃって」っていう感じ。
21 まかる〈謙〉 (偉い人のもとから)離れる 謙譲語。「退出申し上げる」。反対に、偉い人のもとへ行くのは「まうづ」
22 おもしろし 趣深い 笑えるような面白さに限らない。⟹わけわからなくても「趣深い」と訳させられたりする。いい感じ、趣深い、興味深い。✽「おもしろき森」=「いい感じの、雰囲気のいい森」
23 をかし かわいらしい これも今みたいに笑えるようなおかしさに限らない。
24 らうたし かわいらしい 読みは「ロウタシ」。守ってくださいオーラ全開なイメージ。
25 こよなし この上ない 「~をこよなく愛する」の「こよなく」
26 かしづく 世話する/大切に扱う  

注釈 7

*7 かれ 現代では男性に限るが、古文では男女問わない。「あれ」に近く、モノも指せる。

過保護な小人たち

27日ごろ言ふやう、
「わが28つかうまつる白雪姫、
われら29離るる間、
30さらに*8な入れ給ひそ。
妃に知られ*9もぞする」
とて、なき間いと31心もとながりあへり。

そののち、
妃「誰か世にきよらなる」と鏡に問へば、
「白雪姫なり。七人の小人32具してあり」と申す。

単語帳 27〜32

番号
単語
ここでの意味
解説
27 日ごろ 日頃 現代の「日ごろ」と同じように、古文では「日ごろ」以外に「月ごろ」=ここ数か月、「年ごろ」=ここ何年か、というような話もある。「~ごろ」については、「日ごろ」のイメージをもって、「日」の代わりに「年ごろ」などもある、と考えよう。(今の「年頃の娘さん」のような使い方はしないので、現代の「年頃」は忘れよう)
28 つかうまつる〈謙〉 お仕えする 仕え・まつる
29 離る(かる) 離れる/別れる 「わかれる」の「かれる」だと思っていればいい。
30 さらに 〈打消の強調〉全く 打消しの強調に使われる。「そんなつもりはさらさらない」の「さら」だと思えばいい。現代の「それに加えて」という意味の「更に」はあまり出ないので、こっちは忘れた方がいいかも。
31 こころもとなし 気がかりだ  
32 具す ひきつれる/あわせる みそ汁の「具」(汁と一緒になってるもの)のイメージ。

注釈 8〜9

*8 【な〜そ】 ●な〜そ
禁止。〜するな。
✣「そ」を消して、「な」を後ろに回して解釈。
【例】な入れ給ひそ⟹「入れ給ふ」な
*9 【もぞ/もこそ】 ●もぞ/もこそ(「も」+係助詞「ぞ」「こそ」)
〜したら困る
【例】知られもぞする⟹知られたりしたら困る

お妃さま怒りMAX

かかるに妃、
33なかなか腹立ち34おぼえて
35あな36くちをし
37おろかなる38さかしき山がつ、
39心違へけり。かかれば」
40すごき声にて
41かたはらいたきほどに42ののしる

単語帳 33〜42

番号
単語
ここでの意味
解説
33 なかなか かえって 今の「なかなかできない」などの「なかなか」とは違う。
34 おぼゆ 感じる 「見る」→「見える」、「聞く」→「聞こえる」のように、「思う」→「おぼえる」。現代の「怒りを覚える」の「覚える」。
35 あな あぁ 感動詞。
36 くちをし 残念  
37 おろかなり いい加減だ 「おろそか」の「そ」がないもの、と思えばいい。✽ここでは、「あのいいかげんなやつめ」って感じ。
38 さかし 賢い 「小賢しい」の「賢しい」。
39 心違ふ 裏切る 「心を違うようにする」裏切る。気を変える。
40 すごし ぞっとする ①寒いことそのもの⟹②背筋が寒くなるようなすごさ、③つまらない芸を見て「さむっ」って言うような、心が寒くなる感じ⟹「興ざめ」。
41 かたはらいたし きまり悪い 「傍(かたわら)にいて、うわー、イタイなあ」って思う状態。本人は気にしてないかもしれないけど、見ているこっちがイタイ気分に。
42 ののしる 大声を出すこと とにかく大声で騒いでいれば「ののしる」だと思えばいい。⟹悪い意味に限らず、「世間で評判になっている」という表現に使われることあり。世間の人々がうわさして騒ぎになっている、というプラスイメージにも。

私が出よう!

43づから姫君を殺さむと思し召して、
44おうなに変化し、
45あまたのいみじき毒林檎持て、
白雪姫がもとへ46おはす

単語帳 43〜46

番号
単語
ここでの意味
解説
43 ~づから 自分の~で 現代語の「みずから」=身づから=自分の身で。ここでは「手づから」⟹自分の手で
44 おうな/おみな おばあさん おじいさんは「おきな(翁)」
45 あまた たくさん  
46 おはす〈尊〉 いらっしゃる 昔、「水戸黄門」では「こちらにおわす(=いらっしゃる)方をどなたと心得る」って言って印籠を出していた。

小人の忠告ガン無視

白雪姫_毒林檎

姫君、おうなの妃なるを*10え知らず。
おうな、窓叩きて47のたまふやう、
「きよらなる姫君、48くだもの49きこしめさむや」
姫君、
「あな、うまげなる
くだものかな」とて50召すに、
51やがて倒れ臥し*52*11いたづらになりにけり。

単語帳 47〜52

番号
単語
ここでの意味
解説
47 のたまふ〈尊〉 おっしゃる  
48 くだもの お菓子 古文では果物を含んで「お菓子」という位置づけ。
49 きこしめす〈尊〉 召し上がる 「聞く」の尊敬語(お聞きになる)だが、場合によっては「食べる」などの尊敬語としても使われる。ここでは、「くだもの・きこしめさ・む《助動詞・意志》・や《係助詞・疑問》」⟹「くだもの、召し上がりませんか」
50 召す〈尊〉 召し上がる 古文の「召す」は尊敬語で「お呼びになる」という広い意味がもと。人でも食べ物でも着物でも、自分のもとに寄せる。着物を「召せ」ば着ること、食べ物を「召せ」ば食べること。
51 やがて すぐに/そのまま 現代より早い。
52 いたづら 無駄なこと 子供の「いたずら」=無駄なこと。さらに、現代で「死ぬ」を避けて「なくなる」と言うように、古文でも「死ぬ」ことを別の表現ですることがあり、「いたづらになる」でも、現代語の「なくなる(無くなる)」と同じように死ぬことの表現になる。

注釈 10〜11

*10 【え〜ず】 ●え〜ず
〜できない。
【例】え知らず⟹知ることができない。わからない。
*11 【死ぬことの表現】 現代でも直接「死ぬ」というのがきついので「亡くなる(→無くなる)」という表現に変えたりする。古文でも、直接「死ぬ」と言うのを避け、いろいろな言い方をする。
 ・隠る
 ・はかなくなる
 ・言ふかひなくなる
 ・あさましくなる
 ・いたづらになる
など

(;_;)(;_;)(;_;)(;_;)(;_;)

白雪姫_昏倒

白雪姫の53はかなくなりぬるを知りて、
小人ども、「54など、かくなりぬる」と、
55われかのけしきにて56すずろに悲し。
57いかがはせむ」と思ひ惑へど
58かひなし

単語帳 53〜58

番号
単語
ここでの意味
解説
53 はかなくなる 亡くなる コラム「死ぬことの表現」を参照
54 など なぜ 今と同じ「等」の場合とは別に、「何故(なぜ)」の場合とあり。(「飴」と「雨」のような同音異義語)ここは「なぜ」の方。
55 われかのけしき 正気を失った様子 「我か?」の気色。自分が誰かもわかんないような状態→テンパっている状態。
56 すずろなり むやみやたら わけがわからない様子。
57 いか どう いかが=どう、いかで=どうしてなど。(「ごきげんいかが」の「いか」だと思っていればわかる)
58 かひなし どうしようもない、意味がない 甲斐がない=どうしようもない。意味がない。

古典の世界でガラスの棺ってどうなの?

これよりのちも、
59うつくしき姫君の姿60だに*12まほしと、
61こころうき62念じ
硝子の棺に入れ明け暮れ63眺む
64いとど悲しさ65まさりけり。

単語帳 59〜65

番号
単語
ここでの意味
解説
59 うつくし かわいい 美人系・カワイイ系で分けるとすると、カワイイ系であることが多い。
60 だに せめて~だけでも ~さえ。「微動だにしない」=わずかな動きさえしない
61 こころうし つらい 「心」+「憂し」なので、意味もそのまま
62 念ず 我慢する 現代同様、念仏などを唱える、という意味もあるが、「がまんする」「こらえる」という意味もあり。
63 ながむ(眺める) 物思いにふける 現代の「眺める」と同じだが、「物思いにふける」という表現に使われる場合が多い。物思いをしているときはぼんやり外の景色を“ながめ”ているイメージ。
64 いとど ますます/いっそう 「いといと」。「いと」の連発
65 まさる 増える/つのる 「刺す」から「刺さる」ができるように、「増す」から「増さる」。現代の「勝(まさ)る」というのは、「増さる」(上回ること)の一種。

注釈 12

*12 【助動詞まほし】 願望。〜したい。
「欲し」とつながっていると思えばいい。
【例】
「見まほし」→見る、ということがほしい→「見たい」

幸せに暮らしましたとさ。

白雪姫_若宮

ここに若宮あり。
森に行きけるに、棺見つけたり。
66ゆかしくて棺のもとに67て、
「あはれ、世にきよらなる姫君かな」
とて覚えず姫君に68つと口づくれば、
姫君の喉より悪しきくだもの飛び出でたり。

姫君69おどろきて、
そののち宮と70あひ、幸ひ見はてたり。

単語帳 66〜70

番号
単語
ここでの意味
解説
66 ゆかし 心ひかれる/気になる 知りたい気持ち。
67 ゐる 座る 古文では、座る、止まっている状態。「いても立ってもいられない」からわかるように、もともとは「立つ」の反対。
68 つと ぴったり 「みやげ」の場合と、「ぴったり」という場合(「つっ」というのがぴったりくっつく感じの音で、「ふわっと」「ぐっと」のような感じで「つと」)とあり。
69 おどろく 目が覚める 今より意味が広く、①目が覚める②気づく、など。何かに気づいてびっくりしたり、寝ていたのが起きたりすると、元の状態より目が開く。もとより目が開いたら「おどろく」だと思えばいい。
70 あふ 結婚する 古文では、ただ「会う」だけでなく「結婚する」という意味を持つ場合あり。

おまけコラム「古典単語と向き合う心構え」

ここまで見てきた古文単語、「現代では使わない単語」だけが古文単語ではありません 中には、形は今とあまり変わらなくても、意味が違うから気をつけなければならないものも。 ここで、古文単語と向き合うときの心構えを紹介します。

心構えその①

形は現代語と一緒でも、今とは違う意味だと思っていたほうがいいものも。 →今の感覚で読むと勘違いするかもしれないので、気をつけておく必要のある単語あり。今でも見る語だからといって安心しないこと!!
たとえば10「にほひ」、今では「におい」と言えば鼻で感じるものですが、古くは目で感じる美しさ。このように意味のズレがあるものがあるので、まずは今と意味が違うものに要注意。
19、30、51、67、など。

心構えその②

古文単語には、基本的に今と変わらないけど、特別な意味に使われる場合がある。 1「はづかし」など、今も使う「恥ずかしい」に加え、「(恥ずかしくなるくらい)相手が立派」という意味も。   
「こんな特別な意味がある」っていうのを覚えるのがポイント!
 1、2、5、11、20、など

心構えその③

古文単語では、「意味」を暗記するのがつらかったら、今の意味をふんわりイメージして広げてみよう。
15「いみじ」の意味を①ひどい、あんまりだ、②すばらしい・・・などといくつも覚えるのはツライ。「今の「ヤバい」みたいな感じ」とふんわりとらえてくと、かえって意味がとりやすいことも多い。「訳を多数暗記」ではなく、「こんな感じのコトバ」っていうふんわり感も、読解にはかえって大切
4「めでたし」、18「あはれなり」など、訳の暗記よりはふんわりイメージのほうが古文は読みやすい。
8、4、15、18、22、23、40、59、など

心構え②とも関連して、②の「特別な意味」も、ふんわりイメージから、意味のつながりを想像することもできる。 こんな感じで、「意味の暗記」でなく単語と向き合い、考えることができれば、この先、未知の単語に出会っても、その場で考えることができるかも・・・

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※『厳選古文単語70〜古伝 しらゆきひめ/古典助動詞擬人化計画』(2017刊行)より抜粋

「厳選古文単語70 古伝しらゆきひめ」について

本コンテンツは、昭和女子大学日本語日本文学科平成28年度プロジェクト学習科目「コースプロジェクトB」の活動成果をまとめた学内冊子『厳選古文単語70〜古伝 しらゆきひめ/古典助動詞擬人化計画』(2017刊行)の内容を抜粋・加筆修正したものです。

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